黄金のカエル像と沈黙の歌 第1話

※これはHS「仁義なきガジェッツァン」をもとに、

「カバールの奪歌師が何で黄金のカエル像を持っているのか」を、

ねくろむが勝手に想像して作った二次創作です。

原作「Warcraft」をプレイしたことがない故(できる環境がないのが痛い…)、

勉強不足で原作と違う点もあり、

更には想像して組み込んだオリジナルの設定も多少ありますが、ご了承ください。

 

「なあ、この”縄張り”。頭がいないとさ、なにかと不安だろ?俺たちが面倒みてやるからさ」

 

アラコアの少年、ランスは絶体絶命のピンチに直面していました。

正面には、ランスより一回りも大きなアラコアがいます。

彼は、にやにやと笑いながら、背後の取り巻きたちと一緒にランスを威圧的に見下ろしてきています。

 

とても怖いのですが、ランスに逃げることは許されませんでした。

ランスの後ろには、ランスよりも小さな子どもたちが隠れて、震えているのです。

自分が、この子どもたちを守らなければなりません。

自分の声も震えてしまいそうなのを必死に堪えて、できるだけ相手を刺激しないことを心掛けながら、ランスは言いました。

 

「し、心配していただいて申し訳ありません。でも、大丈夫です。俺たちは、自分たちでやっていけます。「兄貴」にここでの生き方を教えてもらいましたから」

 

ランス達には、自分たちを守ってくれる、「兄貴」と慕っていた「縄張り」のリーダーがいました。

しかし、その「兄貴」が、つい先日、死んでしまったのです。

 

できるだけ穏やかにランスは返事をしたつもりでしたが、ゾーイは気に入らなかったようでした。

ぴくっ、とゾーイの片方の眉がはねあがります。

やばい、とランスの本能が、警鐘を鳴らします。

残念ながら、その警鐘は役には立ちませんでした。

 

「生き方を?教えてもらったから大丈夫ですだぁ?」

 

ランスがやばい、と思うのと同時に、そしてランスが逃げる間もなく。

勢いよく延ばされたゾーイの手に襟首を捕まれ、ランスは高々とゾーイの頭よりも高いところに持ち上げられてしまったのです。

 

「うわあっ!」

「ら、ランス兄ちゃんっ!」

 

さっきまでランスが庇っていた子どもたちが抗議の声と悲鳴を上げます。

しかし、ゾーイにぎろりとひとにらみされると、子どもたちはまるで「蛇に睨まれたカエル」のように、恐怖のあまりひっと息を呑んで、身を縮めて硬直してしまいました。

それでも、子どもたちははやる気持ちを抑えきれずに、視線だけはランスを心配そうに追いかけます。

 

「おまえさあ。せっかく俺さまが、『親切』に、『面倒みて』やろうっていってんのに、何だ、その態度は」

 

おびえる子どもたちを満足げに見下ろしてから、ゾーイは、まるで見せつけるかのように、ランスの襟首を掴みなおして更に締め上げます。

 

ランスは苦しげにうめき声をあげました。

 

「ぐっ、うっ」

「ははっ。弱いのに逆らうからそうなるんだよ」

 

ランスの苦痛に歪む表情を見あげて、ゾーイは嘲るように笑いました。

 

「くっ」

 

反対に、ランスは、涙の滲む目で哄笑するゾーイを見下ろします。

ランスは己の非力さが、悔しくてたまりませんでした。

 

(みんなを、今度は俺が守らなきゃいけないのに…!!)

 

ランス達を、守ってくれていた力強い「兄貴」はもういません。

 

ここは砂漠の町、ガジェッツァン。

その中の「最も貧しい一画」に数えられる、「とかげのしっぽ」と呼ばれているスラムです。

「街から見捨てられ、切り捨てられた民」ー居場所がない日陰者たちが集まるという意味で、そう呼ばれています。

 

「とかげのしっぽ」の住人は、争う一方で、少しでも己の生存率を上げるために仲間をつくり、「縄張り」と呼ばれるコミュニティを築きます。

しかし、少しでも弱みを見せれば、すぐに均衡は崩れ、「縄張り」は奪われてしまうのです。

 

特に、今のランス達の縄張りのように、「縄張り」を仕切り、守るリーダーが亡くなってしまうという事態は、最悪の非常事態であり、他の縄張りの者にとっては、自分たちの領域を広げるための絶好のチャンスでした。

 

「くっ、ううう」

 

ゾーイの後ろで、取り巻きたちもにやにや笑いながら、ランスを見つめています。

何とか拘束をふりほどこうと、ランスはゾーイの腕に爪を立てますが、びくともしません。

 

「おうおう。残念でちゅねえ」

 

ランスの必死の抵抗を、まったく痛がるそぶりも見せず、ゾーイは嘲笑します。

その後ろで、ゾーイの取り巻きたちがはやし立てます。

 

「あんまりいじめてやるなよ、ゾーイ。そいつはまだガキだからさ、自分が置かれている立場をわかってねえんだよ」

「ガキ、ねえ。なら、なおさら年上が、ちゃんと「躾けて」やらねえとなあ?」