黄金のカエルと沈黙の歌 第3話

 

何とか、ランスはトーラが壁にぶつかってしまわないように、抱きかかえるようにしてかばいました。

それが精いっぱいでした。

 

受け身もとれないまま、ランスは容赦なく壁に叩きつけられました。

痛みが、見えない巨人の手にえぐられるように殴られたおなかと、壁にぶつかったと背中の前後から、容赦なくランスを襲います。

 

「ぐ、ぅっ」

 

衝撃と激痛に大きく開いたランスのくちばしの奥から、血が弧を描いて飛びます。

ランスは、トーラを抱えたまま、壁に背を預けるようにしてずるずると崩れ落ちました。

周囲で子どもたちの悲鳴が上がります。

 

「ランス兄ちゃん!」

「トーラ!!」

 

その悲鳴をかきけすように、ゾーイの怒声が響き渡りました。

 

「こンの、生意気な、クソガキャア!」

 

びりびりと、ゾーイの怒声は「雰囲気」ではなく、本当に空気を「物理的に」震わせます。

ゾーイの抑えきれない怒りの波動が、魔法の形を持たない魔力の余波という形で世界に干渉しているのです。

 

「…!!」

 

あふれる魔力に載った怒りの波動にとらわれ、悲鳴は一瞬で静まり返りました。

子どもたちは例外なく、一瞬で蛇ににらまれたカエルのように硬直してしまいました。

 

はやく、逃げるんだ。

 

ランスは必死に声を出そうとしますが、喉の出てくるのはひゅーひゅーという、変な呼吸の音ばかりです。

 

ここで終わってしまうのか。

誰も、守れないままに。

 

ランスが絶望しかけた、そのときです。

 

「ぐ、ううううううっ!?」

 

突如、ゾーイが苦しみ始めたのです。

 

「お、おい、ゾーイ!!」

 

取り巻きたちも、さすがの異常事態に取り乱します。

 

「う、ぐ、ぐぬぁああああああああ」

 

ゾーイは地面に倒れこむと、頭を抱えて悶え始めました。

悲鳴を上げながら、ごろごろと地面を転がりまわります。

 

命を覚悟した矢先の敵の不気味な異変に、ランスは戸惑いつつも、トーラをかばいながら、敵の様子を伺います。

 

(なんだ、これ…!?)

 

よく見れば、ゾーイに刻まれた赤マナのタトゥーの光が、強くなったかと思えば、また弱くなったりと、不規則な明滅を繰り返しています。

 

(魔力が、制御できなくなっている?)

 

ランスは気づきました。

先ほどまで、ゾーイの怒りの波動をのせてあふれていた魔力が、すっかり消えているのです。

 

「や、やべえ!赤マナが暴走してるんだ!」

「っ!誰か安定剤、持ってきてるか!?」

「持ってきてねえ!」

「ちくしょう、戻るぞ!!」

 

取り巻きたちは、ゾーイを解放しながら、何かをあわただしく会話しています。

一人がゾーイを背負いあげると、何かを言い残すこともなく、彼らは、ばたばたと去って行ってしまいました。