黄金のカエル像と沈黙の歌 第4話

よほどのひどい状態だったのでしょうか、取り巻きたちはゾーイを抱えてわき目も振らずに去っていきました。

彼らの背中が完全に見えなくなったところで、まるで金縛りから解かれたかのように、ランスははっと我に返りました。

 

「トーラ!!」

 

ランスは魔力の手に首を締め上げられていた弟分のもとへと駆け寄ります。

抱き上げてみると、トーラは気絶こそしているものの、呼吸はしっかりとしていて、一見命に別状はなさそうに見えます。

硬直していた子どもたちも、まだおびえた様子ながら、ランスとトーラの周りに集まってきました。

 

「にいちゃん!」

「トーラ!!」

 

たまたま敵は去りましたが、助かったわけではありません。

また、彼らはやってくるに違いありません。

トーラの首には、まるで物理的に五指で締め上げられたかのように、痛々しく痣が残っています。

何もできなかった歯がゆさに、ランスはくちばしをかみしめ―目を見開きました。

 

「!?」

 

トーラの首元の痣が、―まるで、今も締め上げられているかのように、どんどん赤く色が濃くなってきているのです。

トーラの顔色からは血の気が引き、汗をかき、呼吸が浅くなり始めました。

 

「う、ううう」

 

トーラが苦しげにうめき声をあげます。

先ほどのように直接気道を圧迫されているわけではなさそうですが、悪い病に侵されたかのように、体温は高く、それなのに顔色は青白いのです。

トーラの真っ青な肌の上で、赤い痣はまるで彼の生気を吸い取っていくように、不気味にゆっくりと濃度を増していきます。

 

(何だ、これ…!!)

 

異常事態に、ランスは混乱を隠せません。

 

「に、にいちゃん!」

「トーラが…!」

 

周りの子どもたちも、再びパニックに陥ります。

泣き叫びだす子も出てきました。

ですが、それは逆にランスを落ち着かせました。

 

(ここで立ち止まっている場合じゃない!)

 

何が起こっているのかはわかりませんが、このままではトーラが危ないということは確かです。

ランスは、こんな時、今は亡き兄貴ならどうするのかを考えました。

 

「助けを呼んでくる!みんなは、トーラのことを頼む!!」



おびえる子どもたちを何とか落ち着かせてトーラを託したところで、ランスは「縄張り」の外へと出ました。

一人で外に出るのは初めてで、とても心細く感じますが、今はそんなことはいっていられません。

ランスは羽織っている「兄貴」のローブの裾をぎゅっとにぎりしめました。

 

(大丈夫だ。こういう時、どうするべきか、兄貴は教えてくれた)

 

自分を落ち着かせるように心のうちでつぶやき、ランスはローブのフードを目深にかぶり直します。

今のランスの姿は、どんな種族であるか、一目ではわかりません。

自分の「縄張り」の中ならばともかく、テリトリーの外側では、正体が無力な子どものアラコアとわかれば何をされるかわからないので、そういう格好をしているのです。

 

「とかげのしっぽ」にはいくつもの「縄張り」がありますが、ごく少数、どの「縄張り」にも属さず、自由に行き来する「中立」と呼ばれる存在がいます。

 

「中立」は大きく2つに分けられます。

1つは、単純にとても強いので、存在を黙認されるもの。

とても強いのに、縄張りを作らない・属さない存在はたいてい癖が強いので、多くの者がかかわることを避けるのです。

もう1つは、重宝される特殊な技能を持っている者です。

 

今、ランスが会いに行こうとしている「ドクター」も、その一人でした。

 

「ドクター」は年老いたマーロックで、どんな病も治すことができるという話でした。

その腕は確かで、どこの「縄張り」でもよい待遇で受け入れてもらえるだろうに、偏屈家なのか、はたまた何らかの事情でもあるのか、どこにも属さずにふらふらと気まぐれに「とかげのしっぽ」の中を巡っては、行き当たった病に倒れている者を老若男女も、強者も弱者も関係なく助けているのだとか。

 

(まずは―ドクターの居場所だ)